6 コンピュータ上のソクラテス 「ソウトライン」を使う
この章には何が書かれているのか?
論理的なディスコースはどのように発生するか?
ソクラテス・メソッド(ソクラテス式問答法)
『ペイパー・チェイス』での授業風景。教師との問答で理解が深まっていくシーン
形式論理で現実を切り取るのではなく、どこかに形式論理が当てはまる瞬間があるという信念で思考を続ける態度が、論理的なディスコースを作り出す。
ソウトライン
ソクラテス・メソッドを補助するためのソフトウェア
LISPで作られている
ライティングを通して自分の書きたいことを発見する
考えを発見するために書くプロセスを手助けする
rashita.icon現前から発見へ
アプリケーションと問答すると、その結果をアプリケーションがまとめてくれる
編集者・学者・大学院生に使わせたところ結果は芳しくなかった
使うためにはある「態度」が必要
言いたいことを文章で入力する必要がある
主語があり、その主語の動きを示す述語部があり、といった構造がなくてはならない
ソウトラインの質問をあまりまともに受け止めすぎてもいけない
直感・推測・思いつきのアイデアなどを質問に合わせて入力する
論理的に議論を進めようとする必要はない
論理的なディスコースのアウトラインを作るのは、人間ではなくソウトライン
どういうタイミングで使えるか
何をしようか決めかねて十分な調査もできていないようなときに使うこともできる
調査が終わってから改めて使い、どのように議論を展開するのかのアウトラインを作らせることもできる
こちらが普通の使い方
論文をまとめたあと、議論に論理的な綻びがないかを検討することもできる
Thoughtline : for thinking and writing | WorldCat.org
Outliner Software: Re: Software for Creativity & Idea Generation
rashita.icon実際の問答が提示されているが、「議論」しているという感じはしない。
わりとおうむ返しが多いし、脈絡のない質問も多い
くまきち.icon カウンセリングをしてもらっているような印象を受けました。
著者の返答も、上記にあるように思いつきを書き並べている
ソウトラインがまとめる論点
オーガニゼーション・マン
日本でいうところのサラリーマン
ライフ・スタイル、インターフェースという言葉に囲まれている
西欧文明の「よい文章」は、中産階級の上にヘゲモニーとしてのしかかっている
必死によい文章を身につけようと努力して真似している限り、それは決して自分のものにならない
「よい文章」を方法に分解すると「よい文章」は書けない
ユルゲン・ハーバーマス「コミュニカティブ・コンピテンス」
文法的な正しさだけでなく、話題や場面に応じて言葉を適切に使いこなす能力のこと
コミュニケーション能力の起源について(2)―ユルゲン・ハーバーマス編|山下泰春
『コミュニケーション的行為の理論』
他の人に共有したい情報や疑問などがあれば以下に書いてくださいrashita.icon
TsutomuZ.icon 疑問 
突破口はどこにあるのだろうか
合理性に基づいたコンセンサスを求める
これは
よい文章は中産階級の上にヘゲモニーとしてのしかかっている
が合理的ではないということを指しているのか?
rashita.icon好ましい状態ではないので、別の状態を求める、という点は読み取れますね。
もう少し考えると、 よい文章は中産階級の上にヘゲモニーとしてのしかかっているという状態は、合理性に基づいたコンセンサスを有していない、という指摘だということでしょう。
つまり、みんなが合理的に考えて納得している状態とは言い難い、という話だと思います。
必死に良い文章を身につけようと努力して真似をしている限り、それは決して自分のものにならない。
現代社会においてコミュニケーションを成立させようとすれば(中略)「よい文章」を方法に分解すると「よい文章」は書けない。
は、それぞれソクラテスメソッドとソウトラインに対応していると読んでいいのか?
rashita.icon考えてみましょう。
必死に良い文章を身につけようと努力して真似をしている限りというのは、決まり切った型があり、それを充実になぞる態度だと理解できます。
で、「よい文章」を方法に分解するとは、そうした型ないしは型化するということでしょう。
定型文や、まずAを書いて次にBを書いて最後にCを持っていくというような話の流れのモデル化
そうしたものに頼り切っているだけでは「良い文章」にはならない。
少し精緻に言えば、見た目としては"良い文章"と似通ったものになるが、読んだ人に何かしらの影響を与える機能を持つ文章にはならない、というニュアンスか。
つまり、読んで理解できる文章にはたしかにある種の型があるが、単に(盲目的にという意味)その型をなぞっているだけでは、十全な「よい文章」にはならない。
では、どうすれば?
ソクラテス・メソッドは、教師との問答で理解が深まっていくシーンという文脈で紹介されている。そこでは、どこかに形式論理が当てはまる瞬間があるという信念で思考を続ける態度が論理的なディスコースを作り出すとされている。
この「論理的なディスコース」は完全に重なるものではないものの「良い文章」とイコールな要素が多い。
つまり、型通りの論理があり、それに当てはめて終わりにするのではなく、問いを続けることで、どこかのタイミングでぴたっと「論理」(筋が通った文章)が見つけられるのだと信じて考え続けることが大切という文脈。
それがソクラテス・メソッドであり、それを文章執筆(主に論文)の分野で支援するのがソウトラインというツール。
という構図だと思われます。
rashita.iconまとめ記事を書きました
『思考のエンジン』第六章「コンピュータ上のソクラテス」のまとめ |倉下忠憲
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